『反貧困』を読んで

湯浅誠『反貧困』(岩波新書)を読みました。

湯浅さんは、Wikipediaによれば、学生時代は東大の法学政治学研究科で江戸時代の儒学を専門に研究をされていたそうです。その後どういったきっかけからか、ホームレスや生活保護受給者などの支援を行うNPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」を設立し、現在はNPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」理事長もされているなど、貧困問題に取り組んでいる方です。

本書は、おそらく昔一度読んで本棚にそのままだったのを、久しぶりに読書がしたいなと思ってなんとなく手にとったのでした。

読んでいて印象に残った部分や、自分で調べた関連項目を以下に記録しておきます。2008年に出版された本なので、統計や制度・政策など、現在と違う部分もあるかもしれません。

 

1 生活保護の問題

(1)水際作戦

 福祉事務所が、生活保護の受給希望者からの相談に対し、いろいろと不当な理由をつけて生活保護の申請を断念させること。「住居不定では受給できない」「持ち家があると受給できない」といった説明は、生活保護法の規定内容に反し、虚偽である。「家族に養ってもらえ」や、母子家庭の母親に対し「子供を児童養護施設に預けて働け」といった対応がとられることもあるが、不当である。

 第三者が同行することで、職員の態度が改善することが多い。

(2)捕捉率

 生活保護を利用する資格がある人のうち、実際に利用している人の割合。日本では公的な推計さえ行われていないが、20%を下回る。これに対し、イギリスやフランスでは80%を上回る。

(3)北九州市の事件

 2006年、北九州市の福祉事務所が強引な水際作戦を行い、2か月で3人の餓死者を出した事件。有志により、保護責任者遺棄致死罪等で刑事告発がされた。

(4)その他

・貧困実態の調査結果が、生活保護世帯よりも貧しい世帯がいるのだからと、生活保護基準切下げの材料として使われることがある。

生活保護基準が、税や社会保険料減免の基準になっていることが多いため、生活保護基準の切下げはいろいろな制度に影響を及ぼすことになる。

 

2 労働者派遣の問題

(1)高いマージン率

 業種によるのかもしれないが、3~4割に上る。2012年施行の改正労働者派遣法23条5項で、派遣会社にマージン率の公開が義務付けられた。

(2)派遣対象業務の拡大

 徐々に対象業務が拡大され、現在の禁止業務は、港湾運送業、建設業及び警備業務に限られる(労働者派遣法4条1項)。

(3)偽装請負

 実質的に見て、労働者派遣や労働者供給であるにもかかわらず、請負契約や業務委託契約の形式をとる行為(「偽装請負」などと呼ばれる)は、労働法規違反となる(労働者派遣法5条1項、24条の2、職業安定法44条、労働基準法6条)。

(4)現代版飯場システム

 派遣会社が、日雇い労働者に寮や食事を提供する裏で、賃金と寮費・食費を相殺するなどして労働者の手取りを減らし、低賃金で働かせることのできる労働者を囲い込む仕組み。本書では、貧困ビジネスの一種に位置付けている。

 

3 五重の排除

・教育課程からの排除 …世代間で貧困が連鎖し、知識・学歴の獲得が困難な状態

・企業福祉からの排除 …非正規雇用が典型

・家族福祉からの排除 …親や子どもに頼れない状態

・公的福祉からの排除 …生活保護行政における水際作戦が典型

・自分自身からの排除 …上記4つの排除を受け、自己責任論を内面化し、自分自身の存在価値や希望を見つけられなくなってしまった状態

 

4 いろいろな制度・団体

(1)行政の制度(例)

・ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法 …2002年に制定された時限立法で、2027年まで延長されている。基本法としての性格が強い。ホームレスの定義(2条)から、ネットカフェ難民等は捕捉されない。

・生活困窮者自立支援法 …各自治体の自立支援事業(相談支援、住居確保給付金の支給、就労準備支援など)

・高齢者の入居の安定確保に関する法律 …各自治体のあんしん入居制度

・住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給促進に関する法律 …居住支援法人

(2)民間の団体(詳細略)

NPO法人 …福祉事務所への同行、連帯保証事業など

・法テラス

労働組合

 

 本書は、アマルティア・センの潜在能力という概念を前提にしており、貧困問題は単に所得だけの問題ではないということがわかりました。今後も関心を持っていきたいと思います。